花活はない)” の例文
障子ぎわには小さな鏡台が、違いだなには手文庫と硯箱すずりばこが飾られたけれども、床の間には幅物ふくもの一つ、花活はないけ一つ置いてなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
徳利様と云うのは純然たる徳利では無論ない、と云って花活はないけとも思われない、ただ一種異様の陶器であるから、やむを得ずしばらくかように申したのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは私の母の若いときのだという、花を手にした、せぎすの女の肖像だった。おひきずりの着物をきて、坐ったまま、花活はないけをひざ近く置いて、梅の花かなんか手にしている。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
真中に鉄色のふっくりした座布団が二つ、金蒔絵をした桐の丸胴の火鉢、床の間には白孔雀くじゃくの掛け物と大きな白牡丹ぼたん花活はないけがしてあって、丸い青銅の電気ストーブが私の背後うしろに真赤になっていた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
精巧な用箪笥ようだんすのはめ込まれた一けんの壁に続いた器用な三尺床に、白菊をさした唐津焼からつやきの花活はないけがあるのも、かすかにたきこめられた沈香じんこうのにおいも、目のつんだ杉柾すぎまさの天井板も
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
部屋には小ざっぱりと身じたくをした女中じょちゅうが来て寝床をあげていた。一けん半の大床おおとこに飾られた大花活はないけには、菊の花が一抱ひとかかえ分もいけられていて、空気が動くたびごとに仙人せんにんじみた香を漂わした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)