色里いろざと)” の例文
年頃は漸う十六か七かと思われたが、その娘の顔は、不思議にも長い月日を色里いろざとに暮らして、幾十人の男の魂をもてあそんだ年増のように物凄く整って居た。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白魚しらうおの黒いのがあったって、ひものない芸妓はおりなんかいるわけはない。おまえも存外、色里いろざとを知らない人だねえ」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また浮名立ててもその間夫の事思い切らぬ故に、年季の中にまた遠国の色里いろざとへ売りてやられ、あるいは廓より茶屋風呂屋ふろやの猿と変じてあかいて名を流す女郎あり
島原の誇りは「日本色里いろざとの総本家」というところにある、昔は実質において、今は名残なごりにおいて。
相方あいかたの遊女はおそのといって、六三郎よりも三つの年かさであった。十六の歳から色里いろざとの人となって今が勤め盛りのお園の眼には、初心うぶで素直で年下の六三郎が可愛く見えた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
り候事とて「口舌八景くぜつはっけい」の口舌ならねど色里いろざとの諸わけ知らぬ無粋ぶすいなこなさんとは言はれぬつもりに候へども相手が誰あろう活動の弁士と知れ候ては我慢なりがたく御払箱おはらいばこ致申いたしもうし候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大晦日草紙おおみそかぞうし」とかいったように覚えているが、くさ双紙ぞうしに、若い旦那だんな色里いろざと通いを、悪玉がおだてている絵があって、お嫁さんが泣いているのを見たとき、丸八の先代のことだとかいった。
色里いろざとにても又は町家の歴々の奥がたにても、心のままにあはれるなり。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)