臥床がしょう)” の例文
まったく、きょうの川は明日はなく、明日の湿地は明後日の川と、転々変化浮気女のごとく、絶えず臥床がしょうをかえゆくのがピルコマヨである。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今度からだが痛む病気になって臥床がしょうしたまま来客に接するのにあまり不体裁だというので絹の柔らかいのを用いることにした。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
十一月一日 根本東雲といふ古き俳人の未亡人、八十余歳にて中風ちゅうぶう臥床がしょうとのこと、その娘の小藤田綾子なる人より通知あり。
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
善良な人であり、善良な君主であった。常に正妻とともに寝ね、宮廷内の従僕らに命じて市民に正しい臥床がしょうを見さした。
で、ついにその日は司令部の幕舎テントのうちで横になってしまった。謹厳な彼として、陣中、昼の臥床がしょうたおれるなどは、けだし、よくよくであったらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私担当分の講座原稿は一応の準備ができておりますから臥床がしょう中執筆、第六回配本に間に合わすよういたします。
もし伊豆山に果たして糸子が臥床がしょう中であるとすると、その糸子がにせ物であるか、あるいは春日町の空家で発見された糸子がにせ物でなくてはなりません。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
目下中風で臥床がしょうしており、夫人だけが同志社に教鞭きょうべんったり個人教授をしたりして夫を養っているのであるが、夫が発病して以来自宅では敏子以外に生徒を取らず
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
上皇の保良宮の滞在は、病気の臥床がしょうの滞在だった。道鏡のみが枕頭ちんとうにあり、日夜を離れず、修法し、薬をねり、看病した。そして上皇は全快した。彼女の心はみたされたから。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
以前より心臓性喘息ぜんそくを患われ、昨秋頃より漸次悪化して約二カ月ばかり臥床がしょうせられました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
一年程経ちますと、清三はひどい肋膜炎を患って、半年程臥床がしょうするようになりましたが、その後は、殆どK町に退いてそこに召使を相手の静かな夫婦生活をするようになったのです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
彼奴だ。黒焦は彼奴だ。火星だ火星だ。悪魔だ悪魔だ。などと取止めもなき事を口走り、女将スミ子を驚かしたよしで、その翌日の三月一日は疲労のためか終日臥床がしょうして一食もらず。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
然るに臥床がしょうに就く時は、熟眠して快き夢ありて、此れぞ極楽界たるを覚えたり。故に予は地獄と極楽とを一昼夜の間に於ける実地に於けるを感ぜり。依て自ら心に誇る処あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
ときに、己の最も貴重せる大切の釣り竿ざお一本を海岸に忘れて帰りしを発覚し、その紛失せんことを恐れしも、夜中のことなれば海岸までたずねに行くこともできず、そのまま臥床がしょうした。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
木の枝をきりとってたんかを製作し、これにドノバンをしずかに臥床がしょうさした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
なんじ竹藪の奥に生れて、その親も知らず、昼は雪隠せっちんにひそみて伏兵となり、夜は臥床がしょうをくぐりて刺客となる、とつ汝の一身は総てこれ罪なり、人の血を吸ふは殺生罪なり、蚊帳の穴をくぐるは偸盗ちゅうとう罪なり
倉次氏は時々来診せられたり。然るに十二日の朝は、例により臥床がしょうを放れて便所にきて、帰りて座に就くや、暫時にして俄かに面貌変じたり。夫れより只眠るが如くにして絶息せり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
もっとも、夫が臥床がしょうしてからは、家の風呂を沸かしたことは二三度しかない。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)