腕車わんしゃ)” の例文
支那町傅家甸フウジャテンの新世界で、川鮑魚湯せんぽうぎょとうだの葱焼海参そうしょうかいざんだのと呼号する偉そうできたない食を喫したのち、私たちは不可解な腕車わんしゃをつらねて
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
六月十日、恤兵会の用件で小田原の知人を訪ねた帰り、急に箱根へ行ってみようと思い立って、三枚橋で腕車わんしゃを傭った。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
高帽こうぼう腕車わんしゃはいたるところ剣佩はいけん馬蹄ばていの響きと入り乱れて、維新当年の京都のにぎあいを再びここ山陽に見る心地ここちせられぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一同は一足お先に那河川なかがわに架けたる橋を渡り、河畔の景色けいしょくき花月旅店りょてんに着いて待っていると、もなく杉田先生得意満面、一行の荷物を腕車わんしゃに満載してやって来た。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
腕車わんしゃ肩輿けんよと物は既に異っているが、昔も今も、放蕩の子のなすところに変りはない。蕩子のその醜行を蔽うに詩文の美を借来らん事を欲するのも古今また相同じである。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
に人の最も変化するは十三歳頃より十七、八歳の頃にぞある、見違えしもむべならずやなど笑い興じて、共に腕車わんしゃに打ち乗り、岡山有志家の催しにかかる慰労の宴にのぞまんため
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
寺院は随一の華主とくいなる豆府とうふ屋の担夫かつぎ一人、夕巡回ゆうまわりにまた例の商売あきないをなさんとて、四ツ谷油揚坂あぶらげざかなる宗福寺にきたりけるが、数十輛の馬車、腕車わんしゃ梶棒かじぼうを連ね輪をならべて、肥馬いななき、道を擁し、馭者ぎょしゃ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父上と手をわかちて用意の整えるある場所に至り、更に志士の出獄を祝すとか、志士の出獄を歓迎すとか、種々の文字を記せる紅白の大旗たいきに護られ、大阪市中を腕車わんしゃに乗りて引き廻されけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その日午前九時過ぐるころ家をでて病院に腕車わんしゃを飛ばしつ。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娑婆しゃばの空気に触るる事の嬉しく、かつは郷里より、親戚知己ちきの来り会してなつかしき両親の消息をもたらすこともやと、これを楽しみに看守にまもられ、腕車わんしゃに乗りて、監獄の門を出づれば、署の門前より
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
お孝をかすめて腕車わんしゃが一台。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)