腋臭わきが)” の例文
腋臭わきがくさい肩から、むき出しになっている女の腕の、銀緑色の生毛などを、如何に少年らしい興奮を以て、彼は眺めたことであったろう。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
切られる時、腋臭わきがの匂いも何んにしたとは言わなかったろう、誰が馬鹿馬鹿しい、お新ででも無ければ、尼還あまがえりの短い髪などを
倉どんの体や座蒲団から腋臭わきがをもっているような体臭が鼻をついてくるし、奥へ入ると日当りの悪い茶の間特有な冷たい匂いが身をひき緊め
織女星さまは唯一人の男を守つて、一年に一度の嬉しい夜を樂むのであるが、自分には旦那といふ腋臭わきがのする人があつて、一年中附き纏はれてゐる。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
桂庵けいあんへ歎願しても一人も寄越して呉れないのに十八人もずらりと並んでそれが皆揃いも揃って別嬪だったからね。トラホームや腋臭わきがらしいのは一人もいない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一人めみえに來たのはあつたが、腋臭わきががひどいといふ理由で採用にならなかつた。お米とおつぎとは二月の寒さにも、二階と階下したの客の用で、額に汗を流して居た。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
気がきかなくてデブデブふとっている位ならまだしもの事生れ付きひどい腋臭わきががあったので嫌い抜いたあまり自然その間に出来た子供にまでよそよそしくするようになったわけである。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吐かせようとして抱きかかへると、ぷんと腋臭わきがめくにほひがしたが、それは永年忘れてゐたわが子のにほひだつた。注射を済ませると、寿枝が絆創膏ばんさうかうを貼つた。圭介はふと寿枝の顔を見た。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
皮膚のずりおちた腋臭わきがをふと揮発させてミシンの上にうつぶせる妻はゆめみる
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
肥満ふとりたる、頸輪くびわをはづす主婦めあるじ腋臭わきがの如く蒸し暑く
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あの女アひでえ腋臭わきがだ、とてもくせえや!」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
河に面したくりや葉牡丹はぼたん腋臭わきがから
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「さてね、お前には腋臭わきがが無かつた筈だし、感心に汗臭くもないやうだ、臭いと言へばお互ひに貧乏臭いが——」
長く伸ばした頭髮あたまを、分けたのでもなく、分けぬのでもなく、馬のやうに額に垂れてゐるのも陰氣臭かつた。お光は周章あわてゝ金時計と旅行案内とを押し隱した。——腋臭わきがのにほひがプンとした。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さうして深い吐息といき腋臭わきがとを放つ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「でも、女で、紅い裏で、腋臭わきがにおいでしょう。二階から新造のお通を突き落したのは、お通と間違えてお照を殺したに決まって居るじゃありませんか」
お前さんが側へ來てバタバタやつちや、腋臭わきがの匂ひで旦那がまぎれるぢやないか、間拔けだねエ——
お前さんが側へ来てバタバタやっちゃ、腋臭わきがの匂いで旦那がまぎれるじゃないか、間抜けだねエ——
「いえ、品吉です。若旦那なんかぢやありません。若旦那にはあんな力がないし、私は洗濯物でよく知つてますが、品吉には少しばかり腋臭わきががあります。品吉に間違ひありません」
腋臭わきがだよ、平次親分、——それに相違はあるまいな、お通」