あたは)” の例文
もとより他を論議するのついでに此言このことを附加せしものなれば、二氏も冗長をさけて其理由を言はざりしものならん。然れども吾人は其理由を聞かずんば其説に承服するあたはざるなり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
俗眼だもあやまつことなきなり、たゞ夫れ悪の外被に蔽はれたる至善あり、善の皮肉に包まれたる至悪あるを看破するは、古来哲士の為難なしがたしとするところ、凡俗の容易に企つるあたはざる難事なり。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
然れども久米は勝誇かちほこりたる為、忽ち心臓に異状を呈し、本郷ほんがうまで歩きて帰ることあたはず。僕は矢代と共に久米をかつぎ、人跡じんせき絶えたる電車通りをやつと本郷の下宿げしゆくへ帰れり。(昭和二・二・一七)
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
随てはやてか、随てつなみか、——此時感情の海と思想の空とは、恰も雲走り、潮うづまくのありさまを制するあたはずして、百千ももちの巌はその一箇をだも動かすべからず、はた寸毫も犯すべからざるがごとし。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
彼の恋愛の一徹にして処女らしきところを蔽ふあたはず。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)