“羮(あつもの)” の例文
そこで羮(あつもの)を獻ろうとして青菜を採(つ)んでいる時に、天皇がその孃子の青菜を採む處においでになつて、お歌いになりました歌は
鶫うどん、鶫蕎麦(そば)と蕎麦屋までが貼紙(びら)を張る。ただし安価(やす)くない。何の椀(わん)、どの鉢(はち)に使っても、おん羮(あつもの)、おん小蓋(こぶた)の見識で。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
再び充分に沸(たぎ)らせたならば、塩と醤油で薄く味をつけ、碗に注いで根深(ねぶか)を細かく刻んで添える。口で吹くほど熱いのが、すっぽんの羮(あつもの)の至味であろう。
すっぽん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
年の終りに餅を搗(つ)かず、焼飯に青菜を交えて羮(あつもの)となし、三ヶ日の雑煮に易(か)えるとぞ、これも珍しと。
「昨日ね。M侯爵のところへ行って、大変な御馳走になったよ。すっぽんの羮(あつもの)だとか、すっぽんのビフテキだとか、すっかり材料がすっぽんなんだ。あんな御馳走は生れて初めてだったよ」
M侯爵と写真師 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
汁の真中へ大切に滑り浮す。それは乙女の娘生(きしょう)のこころを玉に凝らしたかのよう、ぶよぶよ透けるが中にいささか青春の潤(うる)みに澱(よど)んでいる。それは和食の鯛の眼肉の羮(あつもの)にでも当る料理なのであろうか。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしわたくしは既に羮(あつもの)に懲りてゐる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
旨(うま)き羮(あつもの)
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
そんな古い記憶があったから、その後長い間、すっぽんの食味に興を惹(ひ)かなかったのであるが、先年京都千本通りの大市ですっぽんの羮(あつもの)を食べたとき、はじめて
すっぽん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
しかしながら、姫柚子の一滴は、爛然(らんぜん)として鍋のなかに佳饌の趣を呼び、時しも窓外の細雨に、二人は秋声の調べを心に聞いた。鼎(かなえ)中の羮(あつもの)に沸く魚菜の漿、姫柚子の酸。
姫柚子の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
膳にのった肴も羮(あつもの)も徒らに都の風をまねて、雅味など思うべくもない。
姫柚子の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)