纏足てんそく)” の例文
雪の長い並木道を纏足てんそくで中国の女は黒く、よちよち動いた。並木道の外れの電車路に、婆さんと男の子供がいた。転轍手と遊んでいた。
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
口を開けた古靴の群れの中に転げたマンゴ、光った石炭、つぶれた卵、膨れた魚の気胞の中を、纏足てんそくの婦人がうろうろと廻っていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「こんど藤野先生から、研究のテエマをもらって、一緒にやってみませんか。纏足てんそくの骨形状など、面白いんじゃないでしょうか。」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこに手をつないでいた清国しんこくの女の子が、棒の倒れるように転がった。纏足てんそくをした耳環の母親が、子供を抱き起しながらトム公を早口でののしった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と思うと又こちらには、手首に銀の環を嵌めた、纏足てんそくの靴が二三寸しかない、旧式なおかみさんも歩いている。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
支那の明の成化間石州の民桑翀そうちゅう、幼より邪術を学び纏足てんそく女装し、女工を習い寡婦をよそおい、四十五州県に広く遊行し人家好女子あらば女工を教うるとて密処に誘い通ず。
纏足てんそくの女房は、小盗市場の古びた骨董のようだ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
それは、言わずと知れた、纏足てんそくだったのである。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
纏足てんそくした小さな足で不自由そうに歩いた。教室の一番うしろの席にいて、伸子は崔さんを見るたびに、彼女をなにかなぐさめてやりたい気持になった。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その前を、脊中いっぱいに胡弓こきゅうを脊負って売り歩く男や、朝帰りの水兵や、車に揺られて行く妊婦や、よちよち赤子のように歩く纏足てんそくの婦人などが往ったり来たりした。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
君が本当に周君の親友なら、こんど私は君たち二人に研究の Thema を与えてやってもよい。纏足てんそくの Gestalt der Knochen など、どうだろうね。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それが見えなくなると、今度は華奢きゃしゃな女の足が突然空へ現れた。纏足てんそくをした足だから、細さはようやく三寸あまりしかない。しなやかにまがった指の先には、うす白い爪が柔らかく肉の色を隔てている。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
纏足てんそくをして、黒い綿入ズボンに防寒帽をかぶった中国の女が、腕に籠を下げ、指にとおしたゴム紐で、まりをはずまして売っていた。その毬は支那風に、赤、黄、緑の色糸でかがってある。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)