いま)” の例文
間もなく信一が猿轡やいましめを解いてやると、光子はふいと立ち上って、いきなり襖の外へ、廊下をばた/\と逃げて行った。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ヨーロッパ諸国の社会の進歩とルネッサンス以来の人間解放の方向とは、中世封建の社会から女にだけ強要された野蛮な貞操のいましめをといた。
貞操について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「引っ捕えて、ただ今、あちらにいましめておきましたが、その処分を、いかがいたしたものかと……ただ今、お奉行まで、ご相談に参ったわけでござります」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
失恋と革命騒ぎと——この二重のいましめから、明日にも解放されんことを僕は僕のために祈る。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
蛇は彼等の手を後方うしろいましめ、尾と頭にて腰を刺し、また前方まへにからめり 九四—九六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その人たちがいま砦の中にいましめられて死を待っているのであった。
主従ここで討死をした、姫は父を失い、母にはぐれ、山路に行き暮れて、悩んでいるのを、通りがかりの杣人そまびとが案内を承るといつわり、姫を檜にいましめ、路銀を奪って去った、ややありて姫は縛を解き
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
その子らはかくも歎くを石うつと師父ちちなる人を将たいましめぬ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
縄をもっていましめむとする。
愚かなるものよ (新字新仮名) / 徳永保之助(著)
そして、ほとんど半死半生のすがたになった彼を、萱原かやはらの枯れ木の幹に賊たちはくくりつけて、やがて、範宴の身も、朝麿の身も、同様に、うしろ手にいましめて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、その中には、黒装束をがれた、一人の女が、高手小手にいましめられて、息さえあるかないかの様子、苦悶の白いうなだれ顔へ、ガクリと黒髪をくずしている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天城四郎が、八寒地獄の氷柱つららの樹にこうして、自分たちをいましめてくれたお蔭である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)