綽号あだな)” の例文
旧字:綽號
常陸介の綽号あだなを得たとあるが、この歌舞の乞食たる常陸介でも、やはり女法師とあって、自ら「仏の御弟子に侍れば、仏の撤下べ」
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
兼吉は綽号あだなを鳥羽絵小僧と云った。想うに鳥羽屋の小僧で、容貌ようぼうが奇怪であったからの名であろう。即ち後の仮名垣魯文かながきろぶんである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
物故ぶつこしてから、もう彼是かれこれ五十年になるが、生前一時は今紀文いまきぶん綽号あだなされた事があるから、今でも名だけは聞いてゐる人があるかも知れない。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
得手吉とは男勢の綽号あだなだが猴よくこれを露出するからの名らしく、「神代巻」に猿田彦の鼻長さ七、『参宮名所図会』に猿丸太夫は道鏡の事と見え
山口屋善右衞門のうちでは、道連と綽号あだなをされました胡麻の灰小平が強談ゆすりに参りましたが、只今では強談かたりをする者も悪才にけて居りまして、種々いろ/\巧者になりましたが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
南瓜は綽号あだなだよ。南瓜の市兵衛いちべゑと云つてね。吉原よしはらぢや下つぱの——と云ふよりや、まるでかずにはいつてゐない太鼓持たいこもちなんだ。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
香以は有中が口を開けば孔明を称するのを面白がって、金を出して遣って孔明祭を修せしめた。今の富豪が乃木祭を行う類である。それからは有中に陣大鼓の綽号あだなが附けられた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
福太郎は綽号あだなを油徳利と云った。後に一中節において父の名をぎ、二世紫文となった人である。鶴寿は梅屋と云った。通称は又兵衛、長谷川町の待合茶屋である。真国は通称七兵衛である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
宇平は常はおとなしいたちである。それにどこか世馴れぬぼんやりした所があるので、九郎右衛門は若殿と綽号あだなを附けていた。しかしこの若者は柔い草葉の風になびくように、何事にも強く感動する。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
体じゅうが青み掛かって白い。綽号あだなを青大将というのだが、それを言うと怒る。もっともこの名は、児島の体の或る部分を浴場ふろで見て附けた名だそうだから、怒るのも無理は無い。児島は酒量がない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)