絵具えのぐ)” の例文
旧字:繪具
それならただもう縦横無尽に絵具えのぐを画布へなすりつけてからに——黒い、射るような眼と、垂れさがった眉と、しわの深く刻まれた額と
千両ばこ、大福帳、かぶ、隠れみの、隠れがさ、おかめのめんなどの宝尽くしが張子紙で出来て、それをいろいろな絵具えのぐで塗り附ける。
その女は顔に青いあざがあるというじゃあねえか。それはもう病気の発しているのを何かの絵具えのぐで塗りかくして、痣のように誤魔化しているんだ。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
顔の大きな刀傷は、できるだけ、素顔すがおをかえるために、絵具えのぐでかいた贋物にせものだったんだ。どうだ机博士、面白い話じゃないか
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大層評判がよろしゅうございますから……なんですよ、この頃に絵具えのぐ持出もちだして、草の上で風流の店びらきをしようと思います、大した写生じゃありませんか。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれどもあの透きとおるような海の藍色あいいろと、白い帆前船などの水際みずぎわ近くに塗ってある洋紅色ようこうしょくとは、僕の持っている絵具えのぐではどうしてもうまく出せませんでした。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
椿岳の画は今の展覧会の絵具えのぐの分量を競争するようにゴテゴテ盛上げた画とは本質的におおいに違っておる。
また細かく切れば家禽かきんの食物にいい。き砕けば角のある動物にいい。その種をまぐさに混ぜて使えば動物の毛並みをよくする。根は塩と交ぜれば黄色い美しい絵具えのぐとなる。
それでもその時分はもう初夏に近い頃でした。何と言つても暖かい日影はあたりに漲つてゐました。野にはアカシヤの白い花が咲き、杜には緑の濃い絵具えのぐをまき散してゐました。
一少女 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
帝展の洋画部を見ているうちに、これだけの絵に使われている絵具えのぐの全体の重量は大変なものであろうと考えた。その中に含まれている Pb と Zn だけでもおびただしいものであろうと思われた。
異質触媒作用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……というのは別のことではなく、絵を描く材料に金銭が掛かるのであって、まず何よりも絵具えのぐが入るのです。
ところでその内の一枚は、他の三枚にくらべて彫刻に塗りこんである絵具えのぐが莫迦に色褪いろあせています。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)