糸杉いとすぎ)” の例文
旧字:絲杉
石灰となってる廃墟はいきょ、バロック風の建物前面、近代式の大建築、からみ合った糸杉いとすぎ薔薇ばら——才知の光の下に力強く筋目立って統一されてる、あらゆる世紀、あらゆる様式。
糸杉いとすぎやこめつが植木鉢うゑきばちがぞろっとならび、親方はもちろん理髪アーティストで、外にもアーティストが六人もゐるんですからね、殊に技術の点になると、実に念入りなもんでした。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
りっぱな玉座ぎょくざには、ただはだかの壁が残っているだけで、黒い糸杉いとすぎがむかし玉座のあったところをその長いかげでさし示しています。土がこわれたゆかの上に、うず高くつもっています。
糸杉いとすぎのみどり燃えたりそのかたへふわふわ桜咲きしらむかも
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
きしる鉄門をまたしめてから、二人は壁に沿って、雪のしたたりが落ちてる墓地の糸杉いとすぎの下の小道をたどり、眼覚めかけてる寒そうな畑中を歩いて行った。クリストフは泣きだした。
ロメオが露台ろだいの上によじのぼって、まことの愛の接吻せっぷんが天使の思いのように天へとのぼって行ったとき、まるい月は黒い糸杉いとすぎのあいだに半ばかくれて、みきった空にうかんでいたこともあるのです。
黒いとがった糸杉いとすぎの姿がところどころにそびえていた。その向こうには畑がうちつづいていた。閑寂だった。地をうなってる牛の鳴声や、すきを取ってる百姓のかん高い声が聞こえていた。
うつらうつらしてる土地の上に太陽が照り渡っていた。麦畑の中にはうずらの鳴き声が聞こえており、墓の上には糸杉いとすぎのやさしいそよぎが聞こえていた。クリストフはただ一人きりで、夢想にふけった。