米塩べいえん)” の例文
其代り米塩べいえんの資に窮せぬ位の給料をくれる。食ってさえ行かれれば何を苦しんでザットのイットのを振り廻す必要があろう。やめるとなと云ってもやめて仕舞しまう。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その米塩べいえんはもとより親のひたいの汗から出ているのですけれど、それはみな父親の職業を通してされることで、直接に親のつくった米味噌にやしなわれるのでなく
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
「しかし、今も申した米塩べいえんのためには敵討ものも書かねえというわけではねえので。」
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すなわち先のごとくにして軒ごとを見舞いあるき、怜悧れいり米塩べいえんの料を稼ぐなりけり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大杉は一時は米塩べいえんにも事欠ことかいた苦境にくるしんでいた事もあったが、最後の柏木に落付いた時は八十円の家賃を払い、奉公人も置き、夫婦から児供までが洋装でかなり贅沢な生活をしていた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
これよりようや米塩べいえんの資を得たれども、彼が出京せし当時はほとんど着のみ着のままにて、諸道具は一切屑屋くずやに売り払い、ついには火鉢の五徳ごとくまでに手を附けて、わずかに餓死がしを免がるるなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いや、たとへ米塩べいえんの資に窮さないにしても、下手へたは下手なりに創作で押して行かうと云ふ気が出なかつたなら、予は何時までも名誉ある海軍教授の看板をつつしんでぶらげてゐたかも知れない。
入社の辞 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いや、たとい米塩べいえんに窮さないにしても、下手は下手なりに創作で押して行こうと云う気が出なかったなら、予は何時いつまでも名誉ある海軍教授の看板を謹んでぶら下げていたかも知れない。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)