竹箸たけばし)” の例文
お婆さんの傍にある手桶ておけの水で手を洗い、さて坐って見ますと、竹箸たけばしげて気味がわるいので、紙でいていただこうとして、「お兄さんは」と聞きますと
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
蝶子の姿を見ると柳吉は「どや、ええ按配あんばいに煮えて来よったやろ」長い竹箸たけばしで鍋の中をき廻しながら言うた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
N教授は長い竹箸たけばしでその一片をつまみ上げ「この中にはずいぶんいろいろなえらいものがはいっていたんだなあ」と言いながら、静かにそれを骨壺こつつぼの中に入れた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そろえて渡す二本の竹箸たけばしを、落さぬように茶の間から座敷へ持って出た。座敷には浅井君が先生を相手に、京都以来の旧歓を暖めている。時は朝である。日影はじりじりとえんせまってくる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母は毎日、「残飯」をにないにいった。柄の小さい叔母は、家の軒下にむしろを敷いて竹箸たけばしを削る内職をした。私も姉も、学校を退けると、手伝わされた。私はこの「箸削り」が一等嫌いであった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
ついでに言おう、人間を挟みそうに、籠と竹箸たけばしを構えた薄気味の悪い、黙然だんまり屑屋くずやは、古女房が、そっち側の二人に、縁台を進めた時、ギロリと踏台の横穴をのぞいたが、それ切りフイと居なくなった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細ながき支那の竹箸たけばし長江ちやうかう画舫ぐわはうさをと思ひつつ採る