端厳たんげん)” の例文
旧字:端嚴
荒廃という死に近き刹那せつなうちに、千年のちりおおわれた端厳たんげんのみ仏を拝し、愛惜の情に身を委ねるにしくはない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
はとみたいな眼を見あわせて、暗にそうささやき合っているような容子ようすだし、お市の方も、名玉めいぎょく香炉こうろのごとく、端厳たんげんとして、飽くまでうるわしくはあるが、ひややかに
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とこに、一幅のじくがかけられてある。端厳たんげんな肖像が描かれてあった。それがお千絵の父である、阿波へ入ったまま消息をたって、今に知れぬ甲賀世阿弥の像である。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
端厳たんげん麒麟きりんのごとき左少将秀吉さしょうしょうひでよし。風格、鳳凰ほうおうのような右少将家康うしょうしょういえやす。どっちも胸に大野心だいやしんをいだいて、威風いふうあたりをはらい、安土城本丸あづちじょうほんまる大廓おおくるわを右と左とにわかれていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白絹でつつんで、さらに、ちつで抱いた愛らしい一帖いちじょう経本きょうほんがはいっていた。紺紙に金泥きんでいの細かい文字が、一字一字、精緻せいちな仏身のように、端厳たんげんな気と、精進しょうじんの念をこめて、書かれてあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、三体の弥陀如来みだにょらいの像を作っていたこと、一心に何か祈念していたこと、それがとても幼い者の振舞ふるまいとは思われないほど端厳たんげんな居ずまいであったことなど、目撃したままを、つぶさに話した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはめッたに山寨さんさいなどではお目にかからない端厳たんげんな人品だ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)