移転ひつこし)” の例文
旧字:移轉
「お移転ひつこし下さいますなら、失礼ではございますが、私の計らひで百円ばかし差上げてもよろしいかと存じまして。」
とんでも無い親類へ行くやうな身に成つたのさ、私は明日あすあの裏の移転ひつこしをするよ、あんまりだしぬけだからさぞお前おどろくだらうね、私も少し不意なのでまだ本当とも思はれない
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この菊塢きくう狂歌きやうかしゆ発句ほつくあり、(手紙と其書そのしよ移転ひつこしまぎれにさがしても知れぬは残念ざんねんにもかくにも一個いつこ豪傑がうけつ山師やましなにやらゑし隅田川すみだがは」と白猿はくゑんが、芭蕉ばせうの句をもじりて笑ひしは
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
斯ういふ病的な頭脳あたまの人になると、捨てられた猫を見たのが移転ひつこしの動機になるなぞは珍しくも無い、といふ話があつたのさ。はゝゝゝゝ——僕は瀬川君を精神病患者だと言ふ訳では無いよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、このごろになつて、婆さんは家の都合で牛込辺へ移転ひつこしをしなければならなくなつた。悲しいことには、移転先には亀を飼ふやうなお池がないのである。……
移転ひつこしを目の先に控へてゐる昨日きのふ今日けふ、亀のことにかまけてなんにも手がつかないでゐるといふのだ。