着衣きもの)” の例文
と、吉野は手早く新坊の濡れた着衣きものを脱がせて、砂の上に仰向にせた。そして、それに跨る様にして、徐々そろそろと人工呼吸を遣り出す。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
殺されている女湯の客の着衣きものが見当らないなんて、そんなおかしい訳はある筈がないと、一同は一様に不審のおもてを見合せた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかも、岬の鼻に来てはすでに微風ではなく、髪も着衣きものも、なにか陸地の方に引く力でもあるかのよう、バタバタ帆のようにたなびいているのだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
三人とも揃いの黒羽二重はぶたえの羽織で、五つ紋の、その、紋の一つ一つ、円か、環の中へ、小鳥を一羽ずつ色絵に染めたあつらえで、着衣きものも同じ紋である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は悠然やおら立って着衣きものの前を丁寧に合わして、とこ放棄ほうってあった鳥打ち帽を取るや、すたこらと梯子段はしごだんりた。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
とどめを刺した守人が、星空を仰いで死骸の着衣きもので帰雁の血糊ちのりをぬぐったとき!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
吉野はグタリと首を垂れて眼をつぶつた。着衣きものはシツトリと夜気にえてゐる。裾やら袖やら、川で濡らした此着衣きものを、智恵子とお利代がつて勧めて乾かして呉れたのだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
天気はし、小春日和だから、コオトも着ないで、着衣きもののおめしで包むも惜しい、色の清く白いのが、片手に、お京——その母の墓へ手向ける、小菊の黄菊と白菊と、あれはわびしくて
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤羽主任は、あちこちにころがっている桶類をまたいで女湯の脱衣場だついじょうへ行くなり、乱雑に散らばっていた、衣類籠いるいかごをひとつひとつ探してみた。が、目指めざす女の着衣も誰の着衣きものも、一向に見当らない。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と蹴出しの浅黄をふみくぐみ、そのくれないさばきながら、ずるずると着衣きものを曳いて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おい、女の着衣きものが見えないぞ、箱を探して呉れ」
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)