せい)” の例文
想うに独立は寛文中九州から師隠元いんげんを黄檗山にせいしにのぼる途中でじゃくしたらしいから、江戸には墓はなかっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
亥之吉は小原鉄心の一行に随って参州吉田に赴きその父をせいして直に名古屋に還ったのである。『亦奇録』に曰く
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あしたゆうべ彼女かれが病床をせいし、自ら薬餌やくじを与え、さらに自ら指揮して彼女かれがために心静かに病を養うべき離家はなれを建て、いかにもして彼女かれを生かさずばやまざらんとす。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
田舎には合祀前どの地にも、かかる質樸にして和気靄々あいあいたる良風俗あり。平生農桑のうそうで多忙なるも、祭日ごとに嫁も里へ帰りて老父をせいし、婆は三升樽を携えて孫を抱きに媳の在所へ往きしなり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
その間二度芳子は故郷をせいした。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
宣揚が山へ登ったのは晩春のころであった。そして、暑い夏を送って秋になると、夫人にいたくなってってもいてもいられなくなったので、父母をせいすると云う名目をこしらえて某日あるひ山をおりた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
五百は「ああ」と一声答えたが、人事をせいせざるものの如くであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)