盗人どろぼう)” の例文
旧字:盜人
巡査は頬を膨らして、「黙れ。場所柄も弁別わきまえず乱暴をいたしおる。棄置かれぬ奴等だ。華族方の尊威をけがすのみならず、ほしいままにここの売物をくらいよったは盗人どろぼうだぞ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと老父さんは、老妻が丁寧にお辞儀をしている頭のさきを、盗人どろぼうが、自分の外套をきて出てゆくのを思いうかべた。そしてさびしい顔をして、あたしのところへいつけに来た。
と、云って笑ったが、皿鉢盗人どろぼうは承知と見えて、それっきり何も云わない、云わない筈さ、泥絵の絵具を塗ったように、金襴手の上薬がぼろぼろこぼれるという二分もしない皿鉢さ
幽霊の自筆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
聞くと、途中で畑盗人どろぼうをして来たんだそうで——それじゃかえって、憑込もうではありませんか。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祖母がすっかりすましてきても、金箱のかぎがあかないで、祖父は盗人どろぼうにおどしつけられていた。
「この盗人どろぼう、俺をこんな目に逢わしておいて、またここへ何しに来たのだ」
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生命いのちがけの情人いろが有って、火水の中でも添わねばならない、けれど、借金のために身抜けが出来ず——以前盗人どろぼうが居直って、白刃しらはを胸へ突きつけた時、小夜着こよぎかぶせて私をかばって
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
盗人どろぼうは飛上って次の間へゆき、グルリと見廻して出て来た。
盗人どろぼう、盗人をつかまえたから、皆来てくれ」
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わっしあね、親孝行な奴が感心だというんじゃあねえんで、へい、不孝な奴でもえらいといいます。へい、盗人どろぼうだって気に入るのがあるし、ほどこしをする奴に撲倒はりたおしてやりたいのがありますね。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年紀としは若し、容色きりょうし、なるほど操は守られますまい、情夫いろおとこが千人あろうと、姦夫まおとこをなさろうと、それは貴女の御勝手だが、人殺ひとごろしをしても仁者と謂われ、盗人どろぼうをしても善人と謂われて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)