発議ほつぎ)” の例文
旧字:發議
「今夜のことは、おれの発議ほつぎだ。まちがっても、大亀にもてめえにも、ヘマを喰わせてすむものか。おれがいる。さあ行こうぜ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らが自分達の手際てぎわではとても駄目だからというので、自分は兄と一番親密なHさんにそれを頼むが好かろうと発議ほつぎして二人の賛成を得た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうどさいわい小山さん御夫婦がせがれの事を御心配下さるから小山さん御夫婦にお願い申したらよかろうとこういう発議ほつぎで外の人もそれまで打破る事が出来ず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「むゝ、づ聞けよ。——評定は評定なれど、此を発議ほつぎしたは今時の博士はかせ秦四書頭はたししょのかみと言ふ親仁おやじぢや。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそれも僕の発議ほつぎじゃない。あんまり和田が乗りたがるから、おつき合いにちょいと乗って見たんだ。——だがあいつは楽じゃないぜ。野口のぐちのような胃弱は乗らないがい。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
熱いから電灯を消そうと発議ほつぎした千代子は、遠慮なく畳の上を暗くした。風のない月が高くのぼった。柱にもたれていた母が鎌倉を思い出すと云った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おい、きょうは、あいつを慰さんでやろう」発議ほつぎは、いつも、寿童丸であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論私にしても格別釣に執着があった訳でもありませんから、早速彼の発議ほつぎに同意して、当日は兼ねての約束通り柳橋の舟宿ふなやどで落合ってから、まだ月の出ない中に、猪牙舟ちょきぶねで大川へ漕ぎ出しました。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「なにこれだけ持って行くがいい。実はこれはさい発議ほつぎだよ。妻の好意だと思って持って行ってくれたまえ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最後に私はKといっしょに住んで、いっしょに向上のみち辿たどって行きたいと発議ほつぎしました。私は彼の剛情を折り曲げるために、彼の前にひざまずく事をあえてしたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると野だがどうです教頭、これからあの島をターナー島と名づけようじゃありませんかと余計な発議ほつぎをした。赤シャツはそいつは面白い、吾々われわれはこれからそう云おうと賛成した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いっその事角屋へ踏み込んで現場を取っておさえようと発議ほつぎしたが、山嵐は一言にして、おれの申し出をしりぞけた。自分共が今時分飛び込んだって、乱暴者だと云って途中とちゅうさえぎられる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有馬行ありまゆきは犬のせいでもなかったろうけれども、とうとう立消たちぎえになった。そうして意外にも和歌わかうら見物が兄の口から発議ほつぎされた。これは自分もかねてから見たいと思っていた名所であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)