疎忽そこつ)” の例文
安吉も今更はっと驚いたが、もうどうすることも出来なかった。問題が問題であるから、普通の疎忽そこつや過失ではとても済む筈がない。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これも疎忽そこつものが読むと、花袋君と小生の嗜好しこうが一直線の上において六年の相違があるように受取られるから、御断りを致しておきたい。
田山花袋君に答う (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
疎忽そこつであり、性急であり、唐突なお転婆てんばな動作をし、むやみに愛情に駆られ、いつも家の中の災難となった。
あな疎忽そこつ吐息といきいでたり。気にかけそ、何といふ事もあらぬを。また妻よ、ほうじてむ玄米の茶を。来む春の話、水仙の話、やがて生れむ子のことなども話してむ。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あっ、これは疎匇そそうを」と叫びつつ、あわてて引き起こし、しかる後二つ三つ四つ続けざまに主人に向かいて叮重ていちょうに辞儀をなしぬ。今の疎忽そこつのわびも交れるなるべし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そこで幇間が、津藤に代つて、その客に疎忽そこつの詑をした。さうしてその間に、津藤は芸者をつれて、匇々そうそう自分の座敷へ帰つて来た。いくら大通だいつうでも間が悪かつたものと見える。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
審査の結了の時は、審査員すべてがさらに寄り合って、今一度精選して万一の疎忽そこつのないように審査会議がありますが、その際、万事済んで行った後で、一つ事項が残っている。
「堪能などとはとんでもない、申上げたとおりまことに疎忽そこつなものでございまして」
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ヘイとんと心得ませんで…お前疎忽そこつだからいけない、お武家様のお腰の物に足をかけてなんのことだね、ヘイうも相済みませんでございました、つい取急ぎまして飛んだ不調法を致しました
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かく読み終れる妾の顔に包むとすれど不快の色や見えたりけん、客はいとど面目なき体にて、アアあやまてり疎忽そこつ千万せんばんなりき。ただ貴嬢の振舞を聞きて、直ちに醜婦と思い取れる事の恥かしさよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
知事は真紅まつかな顔をして起き上つた。属官は自分の疎忽そこつのやうにお辞儀をしい/\フロツクコートの埃を払つた。フロツクコートは綺麗になつた。だが、肝腎の顔はうする訳にもかなかつた。
余りに廷丁の疎忽そこつ可笑おかしく思われたということである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
まことに相済みませぬ疎忽そこつを致しました。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
疎忽そこつなものが花袋君の文を読むと、小生がズーデルマンの真似まねでもしているようで聞苦しい。『三四郎』は拙作かも知れないが、模擬踏襲もぎとうしゅうの作ではない。
田山花袋君に答う (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何か触れた手の疎忽そこつで、ほんの何かの裂傷でも生じた場合に、慌てて、閃めき流れて来る紙の一端を強く裂いてけてる、その刹那こそはまた、如何に老練な工人どもがほとんど始末し
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その時漱石は花袋君及びその他の諸君の高説に御答弁ができかねるほど感服したなと誤解する疎忽そこつものがあると困る。ついでをもって、必ずしもしからざるむねをあらかじめ天下に広告しておく。
田山花袋君に答う (新字新仮名) / 夏目漱石(著)