畸人きじん)” の例文
たとい姑根性は憎んでも、こういう後天的理由で畸人きじん化され病人化された姑その人はむしろ気の毒に感ぜられる。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
畸人きじんだが学問はなか/\あるらしい。同治年間の進士だといふから張之洞ちやうしどう趙爾巽てうじそんや陳宝琛を知つてゐる訳だ。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
昔「猫」を書いた時、その中に筑後ちくごの国は久留米くるめの住人に、多々羅三平たたらさんぺいという畸人きじんがいると吹聴ふいちょうした事がある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
刀自が四五歳の頃は壽阿彌が七十か七十一の頃で、それから刀自が十四歳の時に壽阿彌が八十で歿するまで、此畸人きじんの言行は少女の目に映じてゐたのである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
別にさう大して畸人きじんとも變人とも思はれないで、後家の質屋にでも鑑定の附きさうな田舍坊主であつた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
恐らく今日の切迫した時代では到底思いうかべる事の出来ない畸人きじん伝中の最も興味ある一節であろう。
わが身に引きくらべてもこの畸人きじんの晩年だけは、安らかなれと祈りたい心持ちでいっぱいである。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
是等は皆その当時の村の畸人きじんの一部であるけれども、今ではこういった様な桁外けたはずれの人間はすっかり影をひそめてしまって、製造した様な人間のみ多くなってしまった
江州に一畸人きじんがいます。自分とは古い知りあいで、苗字みょうじたい、名をそうといい、長くその地で牢節級ろうせっきゅう(牢人の役長)をつとめておるところから、通称、たい院長とよばれておる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畸人きじんという通称があったが、しかし難儀な病気の診断が上手だと云う評判であった。ある時山奥のまた山奥から出て来た病人でどの医者にも診断のつかない不思議な難病の携帯者があった。
追憶の医師達 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
御承知かも知れませんが、日錚和尚にっそうおしょうと云う人は、もと深川ふかがわの左官だったのが、十九の年に足場から落ちて、一時正気しょうきを失ったのち、急に菩提心ぼだいしんを起したとか云う、でんぼう肌の畸人きじんだったのです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わが亡友の中に帚葉山人そうようさんじんと号する畸人きじんがあった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
少なくとも一種のキ印には相違ないが、そのキ印は、キチガイのキではなく、キケン人物のキでもなく、最も愛すべき意味の畸人きじんのキであることを、感ぜずにはおられませんでした。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かたちかおをもって、人物を選りわけていたら、偽者ばかりつかんで、真人ほんものを逸しましょう。そうそう、むかし禰衡ねいこうという畸人きじんがいましたが、丞相は、あの人間さえ用いたではありませんか」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)