由緒ゆかり)” の例文
そでれ違って、ひざを突き合せていながらも、魂だけはまるで縁も由緒ゆかりもない、他界から迷い込んだ幽霊のような気持であった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この美しい土人乙女が縁も由緒ゆかりもないこの私を、どうして助けたかということも手真似によって知ることが出来た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それほど由緒ゆかりのない建築もまたはそれほど年経としへぬ樹木とても何とはなく奥床おくゆかしくまた悲しく打仰うちあおがれるのである。
ほかでもねえが、海に由緒ゆかりのあるところから来ている者が、いってえ何人お店にいますね?
三ヶ所で見たのは、扮装いでたちは別々ながら、いずれも高田城内に忍び込んだ怪しき若者にそのままで有った。もしやその由緒ゆかりの者が怨恨うらみを晴らさん為に、附狙うのではあるまいか。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それは玉村商店の番頭が欧洲の宝石市場で手に入れた、古風なロゼット切りの十数カラットのもので、福田氏はその由緒ゆかりありげな光輝こうきれて、兄の玉村氏から原価で譲り受けた品であった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
よく士を愛し、を好むお方だった。嫡男の八幡太郎義家公については云うまでもない。——それやこれ鎌倉こそは源氏に由緒ゆかりの深い第一の地と思う。——要害の点も、この地方とは、比較にならぬ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やめて有體に申されよ假令たとへ如何樣いかやうに包みかくすとも大がい此方へ知れてあれば今更ちんずるはせんなきことなり又平左衞門其方の奉公うけに立てもらひたる切首きりくびの多兵衞と申は如何いか樣成由緒ゆかりあつて請人に成しやと申さるゝに平左衞門は面倒めんだうな事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
春霞はるがすみひくや由緒ゆかりの黒小袖。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)