生紙きがみ)” の例文
かのじょは初めて好奇の眼を見ひらいて、竹縁から庭下駄をはいた。そして、元の窓へ返ってきてよく見ると、西判にしばん生紙きがみに美女の顔が描いてある。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしわたしはこれがために幾多の日子にっしと紙料とを徒費したことをいていない。わたしは平生へいぜい草稿をつくるに必ず石州製の生紙きがみを選んで用いている。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その黄味は天然の色で、楮の甘皮あまかわから出てくるものであります。本当に文字通り「生紙きがみ」という感じで、和紙の持味がにじみ出ているものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのしたためてある生紙きがみ二つ折り横じの帳面からしていかにもその人らしく、紙の色のすこし黄ばんだ中に、どこかかぞの青みを見つけるさえ彼にはうれしかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「知ッてる……生紙きがみ紙袋かんぶくろの口を結えて、中に筋張った動脈のようにのたくるやつを買って帰って、一晩内に寝かしてそれから高津の宮裏の穴へ放すんだってね。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生紙きがみを六尺四方に貼りつないだらしい、——を披いて、まず藩主に低頭、それから老職席に会釈をして、殿の許可を得てこれより藩財政の忠誠なる業績を披露すると口を切った。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
味淋と醤油と生姜に漬けてそれから生紙きがみの上で焼いて食ふと美味いぞ
怪物と飯を食ふ話 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
障子紙、傘紙などの需用は、丈夫な質のよい生紙きがみを求めてみません。いずれもこうぞを主な原料として作ります。和紙はこの郡の物産として年産額の最も大きなものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
丈夫な生紙きがみの二重封じ、しかし、その封じ目は破れていた。お綱が読んだものらしい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
志太しだ朝日奈あさひなの如きはよい生紙きがみの産地でまた周智しゅうち鍛冶島かじしまなどにも仕事が続きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
生紙きがみへ墨を落したように町も灯も山もにじんでいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)