琴柱ことじ)” の例文
そうことは絃がゆるむわけではないが、他の楽器と合わせる時に琴柱ことじの場所が動きやすいものなのだから、初めからその心得でいなければならないが
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
鼓村さんは息子が踊りでしかられるのまでハラハラして、その方へ気をつかうので、琴柱ことじをはねとばしたりした。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
別に、附属品を収めた小型の桐のはこがあって、中に琴柱ことじ琴爪ことづめとが這入っていた。琴柱は黒っぽい堅木かたぎの木地で、それにも一つ一つ松竹梅しょうちくばいの蒔絵がしてある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
母親は、死ぬ間際に顔が汚ないと言って、お白粉しろいなどで薄く刷き、戸棚の中から琴柱ことじの箱を持って来させて
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
琵琶びわらしき響を琴柱ことじに聴いて、本来ならぬ音色ねいろを興あり気に楽しむはいよいよ不思議である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それと一緒に琴柱ことじが二つか三つたおれてパチンパチンと烈しい音がしたように思います。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
琴柱ことじにも使われましたが、三絃さんげんの盛んな頃はそれに使うばちの需要がおびただしいのでしたから、撥おとしが根附の材料に多く使われたのですが、低級の人が用いるので、名のある人たちが
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
折からの雨に涼しく見える、柳の腰を、十三の糸で結んだかと黒繻子くろじゅすの丸帯に金泥でするすると引いた琴のいと、添えた模様の琴柱ことじ一枚ひとつが、ふっくりと乳房を包んだ胸をおさえて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
琴柱ことじがその子の名だ。足掛け三つになる琴柱はもうなんでも言える。それに比べると、お民の連れて来た和助は誕生後二か月にもなるが、まだ口がきけない。立って歩くこともできない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新しいことは真の生活のすがたである。既に生活が不断に移って行く以上、私たちの倫理観もまた不断に移らねばならない。永久の真理というものを求めることの愚は琴柱ことじにかわするにひとしい。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
杓子しゃくし定規、琴柱ことじにかわするの類は、手腕ある法律家の事ではない。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)