特種とくしゅ)” の例文
そういう特種とくしゅの社会哲学を、たれが誰に語っているのかと思えば、聴手ききてにはうしろに耳のないわたしへで、語りかけるのは福沢氏だった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それはどうやら特種とくしゅの薬品を浸みこませた濾気器ろききで、博士が唯一人毒瓦斯にこらえていたのも、そのせいであるかのように思われた。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
逸作が、他にむかっての欲望の表現はくどくないのだ。しかし、逸作の心に根を保っている逸作の特種とくしゅの欲望がある。逸作はそれを自分の内心に追求するにまない男だ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それを聞くと長吉は都会育ちの観劇者ばかりが経験する特種とくしゅの快感と特種の熱情とを覚えた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
特種とくしゅの天恵を放棄せしものと見做さるるに至れり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
これは全く格別の趣きである。これは即ち南宗なんしゅう北宗ほくしゅうより土佐とさ住吉すみよし四条しじょう円山まるやまの諸派にも顧みられずわずかに下品極まる町絵師が版下絵はんしたえの材料にしかなり得なかった特種とくしゅの景色である。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
突然人間の零落れいらく、老衰、病死なぞいう特種とくしゅの悲惨を附加えて見ずにはいられなかった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
互いに異なる風土からは互いに異なる芸術が発生するのは当然の事であろう。そして、この風土特種とくしゅの感情を遺憾なく発揮する処に、すべてのだいなる芸術の尽きない生命が含まれるのではあるまいか。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)