物盗ものと)” の例文
注ぎかけたのであると云う最初からそれが目的だったので普通の物盗ものとりでもなければ狼狽ろうばいの余りの所為しょいでもないその夜春琴は全く気を失い
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
物にもよりますが、こんな財物たからを持っているからは、もううたがいはございませぬ。引剥ひはぎでなければ、物盗ものとりでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「その泥棒というのが、ただの物盗ものとりばかりではない、意趣返いしゅがえしに来たものと見えて、内儀さんと若い男をずいぶんこっぴどい目にわせて帰りました」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「今し方もここへ見えた、見廻り役人の話では、刀試しじゃない物盗ものとりのさむらいで、しかも、毎晩られる手口を見ると、据物斬すえものぎりの達者らしいというこった」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それとも、旗本の屋敷へ、物盗ものとりのように忍び込んで、娘を誘拐した罪を、手前一人で背負って立つか——」
人に意趣遺恨いしゅいこんをふくまれて暗討ちにあうような伊兵衛棟梁ではなし、これで最初の刹那からみなが考えていたように物盗ものとり、金が目当ての兇行ときまった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「どっちにしても、曲者が外から入ったに違いないとすると、物盗ものとりでしょうか、それともうらみでしょうか」
あの物盗ものとりが仕返ししにでも来たものか、さもなければ、検非違使けびいし追手おってがかかりでもしたものか、——そう思うともう、おちおち、かゆすすっても居られませぬ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何者だろう? 単なる通りかかりの者とも思えず、物盗ものとりの浪人らしい挙動もない。といって、立ち去る様子もなし、あくまで黙りこくッて、威圧いあつするように、こッちを凝視ぎょうししている七、八人の侍。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師走しわすに入ると、寒くてよく晴れた天気がつづきました。ろくでもない江戸名物の火事と、物盗ものとり騒ぎがしだいに繁くなって、一日一日心せわしく押し詰った暮の二十一日の真夜中。
「家族たちを起こしたらどうじゃ、物盗ものとりであろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「分らぬ。聞いたこともない声。物盗ものとりであろが」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だが、うらみとか、物盗ものとりとか」
物盗ものとり?」