物干台ものほしだい)” の例文
どの家にも必ず付いている物干台ものほしだいが、ちいさな菓子折でも並べたように見え、干してある赤いきれや並べた鉢物のみどりが、光線のやわらかな薄曇の昼過ぎなどには
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
物干台ものほしだいのようなわくのついた車をしたてて、それにランプやほやなどをいっぱい吊し、ガラスの触れあう涼しい音をさせながら、巳之助は自分の村や附近の村々へ売りにいった。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
何分激しい業務の余暇よか睡眠すいみん時間をぬすんでは稽古するのであるから次第に寝不足がたまって来て暖い所だとつい居睡いねむりがおそって来るので、秋の末頃から夜な夜なそっと物干台ものほしだいに出て弾いた。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その時分知っていたこのの女を誘って何処か凉しい処へ遊びに行くつもりで立寄ったのであるが、窓外まどそと物干台ものほしだいへ照付ける日の光のまぶしさに辟易へきえきして
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしてすべてこの世界のあくまで下世話げせわなる感情と生活とはまたこの世界を構成する格子戸こうしど溝板どぶいた物干台ものほしだい木戸口きどぐち忍返しのびがえしなぞいう道具立どうぐだてと一致している。
人は樹木じゅもく多ければ山の手は夏のさかりにしくはなけんなど思ふべけれど、藪蚊やぶかの苦しみなき町中まちなか住居すまいこそ夏はかへつて物干台ものほしだい夜凉よすずみ縁日えんにちのそぞろ歩きなぞきょう多けれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)