はじ)” の例文
と言つて、薬を飲まされる家鴨あひるのやうに、しつかり口をつぐんだが、物の三十分も経つたと思ふ頃、急にはじけるやうに笑ひ出した。
巨大な影の交錯する縞の中で、人々の口がはじけていた。棉の塊りは動乱する頭の上を躍り廻った。つぶて長測器メートルにあたって、ガラスを吐いた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たちまち、ズーンという、樽のはじける音。もう、駄目だ! ぼうぼうと激しい炎が唸りを立てて、猛火が、家内を一ぱいにきらめかすのが見えるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
舷側のはじけた腐った小舟には、白い菌が皮膚のように生えていた。その竜骨に溜った動かぬ泡の中から、赤子の死体が片足を上げて浮いていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
博士は邪魔物の廂髪をしきりに気にして、やきもきしてゐたが、とうと持前の疳癪玉をはじけさせた。
アスファルトの上ではじける氷、その氷の間に挟まって格闘している日本人と支那の群衆——甲谷は開いた口へ、物が詰ったように背後へ反り返った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
命中あたつたが最期殻の刺毛とげ人間ひとの五六人は殺せるし、命中あたらなかつた所で、うまはじけさへすれば激しい臭味でもつて一大隊位の兵士を窒息させるのは朝飯前だといふのだ。
奴国の陣営は竹のはじける爆音を交えて濛々もうもうと白い煙を空に巻き上げた。長羅は全軍を森の傍まで退却させた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夜が深まると、再び濃霧が森林や谷間から狩猟の後の饗宴に浮れている耶馬台やまとの宮へ押し寄せて来た。場庭ばにわの草園では、霧の中で焚火たきびが火の子をはじいて燃えていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
遠くで殻を巧みに受けとめた客は、それをまた投げ返したり、はじけ散り飛ぶ中で身をすくめたりした。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)