燗瓶かんびん)” の例文
女中のふさは手早く燗瓶かんびん銅壺どうこに入れ、食卓の布をつた。そしてさらに卓上の食品くひもの彼所かしこ此処こゝと置き直して心配さうに主人の様子をうかがつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
と云ううちに小娘は燗瓶かんびんを置いて立上った。ビックリしたらしくバタバタと出て行った。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ああやッと出来ましたよ」と、小万は燗瓶かんびんを鉄瓶から出しながら、「そんなわけなんだからね。いいかね、お熊どん。私がまた後でよく言うからね、今晩はわがままを言わせておいておくれ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
佐太郎は気を取りはずせり、彼は満面に笑みの波立て直ちに出で行き、近処に法事の案内をし、帰るさには膳椀ぜんわんを借り燗瓶かんびん杯洗を調ととのえ、蓮根れんこんを掘り、薯蕷やまのいもを掘り、帰り来たって阿園の飯を炊く間に
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
爺さんは、うなずいて、銅壺どうこに、燗瓶かんびんを放り込む。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ふさ燗瓶かんびんあげしやくをした。銀之助は会社から帰りに何処どこかで飲んで来たと見え、此時このときすでにやゝよつて居たのである。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
竹の皮の庭草履ぞうりを穿きまして、裏の松原に出て用を足しますと、夕方の飲残りの酒を持って松原を抜けまして、外海岸の岩山に登って、そこの草原で燗瓶かんびんの口から喇叭ラッパを吹きながら
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)