焼点しょうてん)” の例文
旧字:燒點
ただ前を忘れ後をしっしたる中間が会釈えしゃくもなく明るい。あたかも闇をく稲妻の眉に落つると見えて消えたる心地ここちがする。倫敦塔ロンドンとう宿世すくせの夢の焼点しょうてんのようだ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たちま近郷きんごうにまで伝えられ、入学の者日に増して、間もなく一家は尊敬の焼点しょうてんとなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
大原満は今こそ愉快の焼点しょうてんに立てり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼は約十分ばかり待った後で、注意の焼点しょうてんになる光のうちに、いっこう人影が射さないのを不審に思い始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれと山嵐がこんなに注意の焼点しょうてんとなってるなかに、赤シャツばかりは平常の通りそばへ来て、どうも飛んだ災難でした。僕は君等に対してお気の毒でなりません。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中にも駿河町するがちょうという所にいてある越後屋えちごや暖簾のれんと富士山とが、彼の記憶を今代表する焼点しょうてんとなった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが uneasy lies the head that wears a crown と云われたので焼点しょうてんが急にきまったような心持がするのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
危うい命を取り留めたというのがあったが、その話が今明らかに記憶の焼点しょうてんに浮んで出た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人に指点す指の、ほっそりと爪先つまさきに肉を落すとき、明かなる感じは次第に爪先に集まって焼点しょうてん構成かたちづくる。藤尾ふじおの指は爪先のべにを抜け出でて縫針のがれるに終る。見るものの眼は一度に痛い。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)