然諾ぜんだく)” の例文
いわば一党の人の然諾ぜんだくと咲耶子の運命うんめいとは二つながら、かかって自分の双肩そうけんにあるのだ。敗れてなるものか、おくれてなるものか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お峯は彼が然諾ぜんだくさはやかなるにひて、紅茶と栗とのこれに酬ゆるの薄儀に過ぎたるを、今更に可愧はづかしく覚ゆるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
口約束だけで間に合わせて行く。しかも然諾ぜんだくを重んずる。子供の頃には羊にる。弓をひいて鳥を射る。青年になると馬に騎って、弓をひいて狐兎ことを射る。食い物といえば肉ばかりだ。
沙漠の美姫 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うまく利用するというのは、意気でもなく然諾ぜんだくでもなく、ただこれぜに
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
チットモ心を落ち付けて筆を執る暇がない。その暇のない間を工面して苦しいけれどその然諾ぜんだくの義務を果さねばならん。仕方がないから大駆足でホンノつまらぬ事を書いてその責を果す事にしました。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「真の人物は、然諾ぜんだくを重んじ、名利では動かない。たとえば、其許そこもとの丈夫な歯を三本抜けるかというに、これは抜けないにきまっていましょう」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし然諾ぜんだくをどうしよう? 知己のご恩をどうしよう? ……この大任を委ねて下された貴郎に対する知己の恩! その大任をお引き受けした貴郎に向かっての私の然諾! この信と義とを
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かようなことで戻って来たわけでした——偶然にも茶人の約束をたがえぬ風と、武士が然諾ぜんだくを重んじる節義とが、相通じたのはうれしいことではございませんか
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは決して、光秀が欲している、言下の然諾ぜんだくを、巧く交わそうとしたのでもないし、また、彼の胸底を見ぬいていながら、わざと空とぼけたわけでもない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父祖このかた、美濃の斎藤家とは、たすけ合ってきた仲だ。野武士とて義はかたい。いやむしろ義ときょう然諾ぜんだくの風を重んじることは、乱世の武門よりまさっている。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然諾ぜんだく、ただちに謙信は、春日山を雷発して、上州へ南下して来た。それが去年の八月。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『いや、成らぬ。何と云われようが、武士の然諾ぜんだく傷負ておいを渡すことは断じて相ならぬ』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武士には、一だくを重んじるという事がござりますぞ。事情を打明けて、この娘、頼むと仰せられたあの涙を、なぜ今お持ちなさらぬのか。よろしいおもらい申そうと、その時云った然諾ぜんだく
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いったん義によって然諾ぜんだくしながら後になって利害損得にぐちぐちいうよりは遥かにましである。それにこういう特徴も大いに用いどころがあるし、使うには使いよいことなども考えられた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明瞭な、然諾ぜんだくの一語だった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)