焦々いら/\)” の例文
「さア早う入つて、善哉ぜんざい喰べやうやないか。何ぐづ/\してるんや。」と、急に焦々いら/\した風をして、源太郎は善哉ぜんざい屋の暖簾を潛らうとした。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
が、電話をかける気にはなりましたものの、不当に呼び出された事に依って、可なり焦々いら/\して居ました。
たちあな姫 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それに、態度がいつも沈著で、読んで字の如き白眼を近眼鏡の下に光らせて、能弁に併し極低調に語る口吻が冷静であつたので、聴いてゐて焦々いら/\するやうなことはなかつた。
斎藤緑雨と内田不知菴 (新字旧仮名) / 坪内逍遥(著)
私は焦々いら/\して來た。一つ二つのせか/\した動作どうさと、彼の顏に注いだ熱心なきつとした視線が、言葉と同じ位に確實に、しかもより少い面倒さを以て彼にその氣持を傳へた。
陽にさらした毛のまばらな生剥ぎの皮を見るような寂しく焦々いら/\しい感じを起させます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
のみならず、焦々いら/\した学校時代などには半分夢中で附合つて居た人、名前は知らなくても毎日叔父さんのうちの前を通る人、噂に聞いた人、其他そのほか種々いろ/\な女の人を真実に見分るやうに成つた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その取乱した姿勢を見ると、「なぜあんな男に」かう焦々いら/\と責めたくなる。……娘が何かのわたしの暴言を、さも聞きづらいといふ風にとがめ立てした時、わたしは娘を荒々しく突き飛ばした。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
時々、自分は何か一足飛びな事を仕出かさねばならぬやうに焦々いら/\するが、何をして可いか目的めあてがない。さういふ時は、世の中は不平で不平で耐らない。それが濟むと、何もかも莫迦臭くなる。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さア早う入つて、善哉喰べようやないか。何ぐづ/\してるんや。」と、急に焦々いら/\した風をして、源太郎は善哉屋の暖簾を潜らうとした。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
思つたのだつて! 思つたのだつて! 成程、君の云ふのを聞いてると焦々いら/\してくるよ。だがしかし、君は負傷してゐる、而も私の忠告をれなかつたといふかどで結構負傷してもいゝのだ。
彼は焦々いら/\した調子でかう言つて、束になつた葉書や手紙の中から、赤い印紙を二枚貼つた封の厚いのを取り出した。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
輝やかしい夜の街にはつきり照し出されたのを見ると、その箱馬車は私がセリイヌにやつたものだと分りました。彼女が歸つたのです。無論私の胸はもたれてゐた鐵の手摺を焦々いら/\と打ちましたよ。
彼は焦々いら/\した調子でかう言つて、束になつた葉書や手紙の中から、赤い印紙を二枚つた封の厚いのを取り出した。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
お光は焦々いら/\した揚句に、またコートを取り出し、それを着て、シヨールを掛けて、四季袋を提げて、洋傘を持つて、柱にかけてある麥酒ビールの廣告附きの細長い鏡の前に進み
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)