無筆むひつ)” の例文
姉はそれぎり何ともいって来なかった。無筆むひつな彼女は最初の手紙さえ他に頼んで書いてもらったのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○秋山中に寺院じゐんはさら也、庵室あんじつもなし。八幡の小社一ツあり。寺なきゆゑみな無筆むひつ也。たま/\心あるもの里より手本てほんていろはもじをおぼえたる人をば物識ものしりとて尊敬そんきやうす。
もっとも母は無筆むひつですから、自分では書くことはできませんが、宿屋へたびに宿屋で書いてもらって投函するように約束してありましたから、私は心配でなりませんでした。
母の変死 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「……『狐憑きつねつき、落つればもとの無筆むひつなり』……という川柳を知っているかね君は……」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ふとしたことから、こうしてかこって置くおめかけの身の上や、馴初なれそめのむかしを繰返して考える。お妾は無論芸者であった。仲之町なかのちょう一時いちじならした腕。芸には達者な代り、全くの無筆むひつである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分の無筆むひつを恥じての照れ隠しでしょう。
その不思議といふは、昔より此逃入村の人手習てならひをすれば天満宮のたゝりありとて一村の人皆無筆むひつなり。他郷たきやうよせて手習すればたゝりなし。しかれども村にかへれば日をおひわすれ、つひには無筆となる。
その不思議といふは、昔より此逃入村の人手習てならひをすれば天満宮のたゝりありとて一村の人皆無筆むひつなり。他郷たきやうよせて手習すればたゝりなし。しかれども村にかへれば日をおひわすれ、つひには無筆となる。