旧字:爲永春水
長吉はふと近所の家の表札に中郷竹町なかのごうたけちょうと書いた町の名を読んだ。そして直様すぐさま、このごろに愛読した為永春水ためながしゅんすいの『梅暦うめごよみ』を思出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半七はまた舌打ちをしながら、向う河岸へ渡ってゆくと、その頃の小梅のなかごうのあたりは、為永春水ためながしゅんすいの「梅暦」に描かれた世界と多く変らなかった。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山東京伝さんとうきょうでんであれ、式亭三馬しきていさんばであれ、十返舎一九じっぺんしゃいっくであれ、為永春水ためながしゅんすいであれ、直接に当時の実社会を描き写して居るものが沢山ありますが、馬琴においては
親戚しんせきの家にあった為永春水ためながしゅんすいの「春色梅暦春告鳥しゅんしょくうめごよみはるつげどり
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
国貞は近頃一枚絵にと描いてやった深川の美女がうわさをしはじめると鶴屋の主人あるじはまたの地を材料にした為永春水ためながしゅんすいが近作の売行うれゆきを評判する。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
為永春水ためながしゅんすいの小説を読んだ人は、作者が叙事のところどころに自家弁護の文をさしはさんでいることを知っているであろう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一 柳亭種彦りゅうていたねひこ田舎源氏いなかげんじ』の稿を起せしは文政ぶんせいの末なり。然ればそのよわい既に五十に達せり。為永春水ためながしゅんすいが『梅暦うめごよみ』を作りし時の齢を考ふるにまた相似たり。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
為永春水ためながしゅんすいの小説『梅暦うめごよみ』の続篇たる『辰巳たつみその』以下『梅見船うめみのふね』に至る幾十冊の挿絵は国直の描く処にして余は春水の述作とあわせて深くこの挿絵を愛す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしはまた更に為永春水ためながしゅんすいの小説『辰巳園たつみのその』に、丹次郎たんじろうが久しく別れていたその情婦仇吉あだきちを深川のかくれにたずね、旧歓をかたり合う中、日はくれて雪がふり出し
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
為永春水ためながしゅんすいその年五十を越えて『梅見の船』を脱稿し、柳亭種彦りゅうていたねひこ六十に至ってなお『田舎源氏』の艶史を作るにまなかったのは、ただにその文辞の才くこれをなさしめたばかりではなかろう。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)