うるお)” の例文
句意は三伏さんぷくの暑き天気にかわきたる咽元のどもとうるおさんと冷たき水を飲めば、その水が食道を通過する際も胸中ひややかに感ずる所を詠みたるなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
また四斗樽しとだる三箇を備えて、血と臓物を貯えしが、皆ことごとく腐敗して悪臭生温なまぬるく呼吸を圧し、敷きたる筵は湿気に濡れ、じとじととうるおいたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
君よ、たとい僕と離るるとも、もし君が傷ついたならまた僕の所へ帰ってきたまえ。うるおえる眸と柔らかな掌とは君を迎えるべくやぶさかではないであろう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
一行は手分けをして、雨にうるお身長みのたけより高い草を押分け押分け、蚤取眼のみとりまなこで四方八方捜索したが、いかにしても見出す事が出来ない。咽はいよいよ渇いて来る。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
集めてこれを水ぎわを去るほどよき処、乾ける砂をえらびて積みたり。つみし物はことごとくうるおいいたり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
平坦へいたんうるおいのある土地、よどんだ運河の濁り水に退屈げな顔を映してる、居眠った古い小さな町。その周囲には、単調な田野、耕作地、牧場、小さな流れ、大きな森、単調な田野……。
バナナの如きも液はないけれど善く熟した者はうるおひがあつて食ひやすい所がある。柔かな者には濡ひが多いといふが通則である。(八月十七日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
墨色うるおふが如く趣向も善きにや浅井下村中村など諸先生にほめられ、湖村こそんは一ヶ月に幾度来ても来る度にほめて行く。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)