くぐり)” の例文
旧字:
ドンと一つ押してみたが、門もくぐり戸も開く様子がない。お綱はどこから入ったか知らぬが、孫兵衛、縮緬ちりめんぞッきの風采で、塀の中からはくぐりかねた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くぐりを手で押すと、音もせずにいた。八は門の内に這入つた。此時がたがたどしんといふ恐ろしい音がした。八はびつくりして背後うしろの潜戸に手を掛けた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そのときふと私はその四五日前に見た、加藤家の半白の猫が私の家のうさぎの首をくわえたと見る間に、垣根かきねくぐりり脱けて逃げた脱兎だっとのような身の速さを何となく思い出した。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その格子戸のくぐりの上へ手を掛けて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏門のくぐりに見ゆる青葉かな 野紅
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
八はぢつと其屋敷を見てゐると、今迄薄明うすあかりの差してゐた別当部屋の窓が、忽ち真暗になつた。間もなく別当が門のくぐりけて、番傘ばんがさをさして出て来て、八のゐる処と反対の方角へ行つてしまつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)