湿)” の例文
旧字:
かれらは、吉原に近い土手裏の湿め湿めした掘立小屋のような木賃に、うじのようにうごめきながら、朝から晩まで唄いつづけていたのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
七重にも八重にも山を取りいている羊腸たるこの小径は、道幅かれこれ二フィートばかりもあったであろうか? 落葉が厚く湿め湿めと散り敷いて
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
左側がやぶで、右側になにかのほこらでもあるのだろう、杉林に囲まれた湿め湿めした広場がある、来太はそこで追いついた。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
墓地は、道路よりも低くなっているので、気味わるく湿湿めしていて、無縁らしい古い墓のまわりの水たまりになっているのさえ二三見られる位だった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
薄暗い二階は畳でも壁でも湿湿として、その気味の悪さはない。町を鯷売ひしこうりが呼んで通った。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
まだ腹が脈うっていた。そして凄まじい煙硝の臭いが、湿め付いたあなぐらの空気の中に鼻を衝かんばかりでこもってきた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
両側に積み上げられたむさくるしい獣のおり……湿め湿めとした細長い土間……高い光も届かぬ天井……そして戸を
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
暗い湿っとりした谷間たにあいを通って、道はまた次の山へ登りになって、やっと最後のこんもりとした山の中腹を回ると、眼下はるかの向うに、村らしい家々の屋根が
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
ゴリラ言語が完成される前に、みんなが腐って、湿め湿めと無表情に死んでゆくだけではないか。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この男の蛇のように執拗な湿湿めした性格というものが、今度の奥様の事件にまことに重大な因果関係を帯びておりますので、もうしばらくのところ御辛抱なさってお聞きを願いたいと思います。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)