温泉場ゆば)” の例文
温泉場ゆば御那美おなみさんが昨日きのう冗談じょうだんに云った言葉が、うねりを打って、記憶のうちに寄せてくる。心は大浪おおなみにのる一枚の板子いたごのように揺れる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは日名子ひなこ氏に案内されて街の中のどこかの共同温泉場ゆばを見に行ったとき、私たちの目の前には一人の若い女が現れた。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
伊豆の温泉場ゆばでは、浅井は二日ばかり遊んでいた。海岸の山には、木々の梢が美しくいろどられて、空が毎日澄みきっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ここは、上田の城下に近い別所の温泉場ゆばであった。まだ故郷ふるさとに遠くないので、身を恥じてか、環という名を捨て、別名の内蔵助をもじって、内蔵吉くらきちと名乗っていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日の暮れ方にお増は独りで、とおるような湯のなかに体をひたして、見知らぬ温泉場ゆばにでも隠れているような安易さを感じながら、うっとりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「志保田って、あの温泉場ゆばのかい」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
笹村のがわに、そんなことのないのが、お銀にとって心淋しかったが、それでもそのころ温泉場ゆばにいたある女から来た手紙や、大阪でわかい時分の笹村が
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある町場に近い温泉場ゆばへつれて行った時、父親はそこで三日も四日も逗留とうりゅうして、しまいに芸者をあげて騒ぎだした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女が情夫おとこと別れて、独立の生活を営むにつけて、足手纏あしてまといになる子供を浅井にくれて、東京附近の温泉場ゆばとかへかせぎに行っているのだということも、真実ほんとうらしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「何しろ大きい身上しんしょうを飲みつぶしたくらいの人だもんだでね。大気だいきな人で、盛りに遊んでいる時分温泉場ゆばから町へ来るあいださついて歩いたという話を聞いているがね。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)