海鼠腸このわた)” の例文
その晩、かえってくると師匠はからすみだの、海鼠腸このわただの、つぐみの焼いたのだの、贅沢なものばかりいい塗りの膳の上へ並べて晩酌をはじめた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ちいさきたならしいおけのままに海鼠腸このわたが載っている。小皿の上に三片みきればかり赤味がかった松脂まつやに見たようなもののあるのはからすみである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「分つた、海鼠腸このわた。……五島ごたうだつしやろ。……それ知らいで、飮酒家さけのみと可味いもん喰ひの看板掛けとかれまツかいな。」
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なほ次手に吹聴ふいちやうすれば、久保田君は酒客しゆかくなれども、(室生を呼ぶ時は呼び捨てにすれども、久保田君はいまだに呼び捨てに出来ず。)海鼠腸このわたを食はず。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
魚類のはらわたなんぞは大概刺撃性の強いものですからアラ酒といって甘鯛のアラへお酒をかけて飲むと早く酔いますし、松魚かつお塩辛しおからの事は酒盗しゅとうという位ですし、海鼠腸このわた海胆うにも酒を酔わせます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
雲丹うにだの海鼠腸このわただの、お文の好きなものを少しづつ手鹽皿に取り分けたのや、其の他いろ/\の氣取つた鉢肴を運んで置いて、女中は暫く座を外した。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この頃丸髷まるまげったお蓮は、ほとんど宵毎よいごとに長火鉢を隔てながら、牧野の酒の相手をした。二人の間の茶ぶ台には、大抵たいていからすみや海鼠腸このわたが、小綺麗な皿小鉢を並べていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先生は海鼠腸このわたのこの匂といい色といいまたその汚しい桶といい
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
海鼠腸このわた 七二・四九 八・八四 二・六九 一五・九九
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
雲丹うにだの海鼠腸このわただの、お文の好きなものを少しづゝ手塩皿に取り分けたのや、其の他いろ/\の気取つた鉢肴はちざかなを運んで置いて、女中は暫く座を外した。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
海鼠腸このわた下物さかなにお駒の酌で、熱いのを立て續けに三四杯呷りつゝ、平七はまたこんなことを言ひ出した。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)