浴衣姿ゆかたすがた)” の例文
勘次かんじにはかそびやかすやうにして木陰こかげやみた。かれ其處そこにおつぎの浴衣姿ゆかたすがた凝然じつとしてるのをむしろからはなれることはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ことにありあり思い出されるのは同じ縁側に黙って腰をかけていた、当時はまだうら若い浴衣姿ゆかたすがたの、今はとくの昔になき妻の事どもである。
庭の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その男にばれて、女が向うの座敷にいっている時、ちょうど上の木屋町の床で、四、五軒離れたところから、二人とも今湯を上がったばかりの浴衣姿ゆかたすがた
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お増は、お今などに世話をしてもらった風呂から上ると、ばさばさした浴衣姿ゆかたすがたで、縁側の岐阜提灯ぎふぢょうちんの灯影に、団扇うちわづかいをしながらせいせいしたような顔をしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
国彦中尉は浴衣姿ゆかたすがたとなり、正坊を抱いてニコニコしながら座敷へはいってきた。入れちがいに旗男は、湯殿ゆどのの方に立った。途中台所をとおると、大きな西瓜が、まないたの上にのっていた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
園内の渓谷けいこくに渡したり橋を渡って行くとき向こうから来た浴衣姿ゆかたすがたの青年の片手にさげていたのも、どうもやはり「千曲川ちくまがわのスケッチ」らしい。
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
海岸にちかい或町の停車場へおりたのは、暑い七月の日も既に沈んで、しおつぽい海風がそよ/\と吹き流れてゐる時分であつた。町には電気がついて、避暑客の浴衣姿ゆかたすがたが涼しげに見えた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
戸浪は洗いざらしの浴衣姿ゆかたすがたというだらしの無いふうをしていたのだった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)