河面かわも)” の例文
眺め入る河面かわもは闇を零細れいさい白波しらなみ——河神の白歯の懐しさをかつちりかの女がをとめの胸に受け留める。をとめは河神に身を裂かれいのだ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その声に、かえって、右門は突きのめされたように、ざぶん——と河面かわもの月影を砕いて自分を投げ入れてしまった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
闇の河面かわもが静かに動いて、一町あまり隔たっている小さい桟橋の方角へ、人眼を忍ぶように辷って行く。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ、白骨をのせた巨蓮ヴィクトリア・レギアの食肉種が、河面かわもを覆うているのが望遠レンズに映ったそうである。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
がぶっという異様な水音を聞いて、おせんが蒲団から頭を出した、河面かわもは真昼のように明るかったが、なにやら焼け落ちた物が流れてゆくほかには、どこにも幸太の姿が見えなかった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二三町も行くと、道は隅田川のさびしいどてに出た。対岸の家々の燈火が、丁度芝居の書割かきわりの様に眺められた。真暗な広い河面かわもには、荷足船にたりぶねの薄赤い提灯ちょうちんが、二三つ、動くともなく動いていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丹下左膳のどら声が河面かわもいた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのしおに、対岸でも、布陣をあらためているらしく、しきりに兵馬の移動がながめられたが、やがての事、前にもまして弓勢が、河面かわもくらくなるばかりを射かけて来た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筏師はあたかも水を踏んで素足でつつ走る奇術師のやうだ。そのすばしこさに似合ふやうな、似合はぬやうな山地のうすのろいうたの哀愁のメロデーを長閑のどか河面かわもに響かせて筏師は行く。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ダラリと袖を欄干へ垂らし、ぼんやり河面かわもを眺めやった。やはり都鳥が浮かんでいた。やはり舟がとおっていた。皆々他人であった。急に眼頭めがしらがむずがゆくなった。眼尻がにわかに熱を持って来た。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
外濠の暗い河面かわもに、伝馬船が一そう提灯ちょうちんの明りをまたたかせて、もやっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河面かわもをすかして見た。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)