気禀きひん)” の例文
もし日本の土地が、甘美な、哀愁に充ちた抒情詩的気分を特徴とするならば、同時にまたそれを日本人の気禀きひんの特質と見ることもできよう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
こういいたげにやや厚手あつでの、それでいて醜くない立派な口、金持ちの証拠に耳たぶが厚く、詩人的気禀きひんがあるからであろう、額が広く光がある。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
画面からうける気魄、筆触から出ている気禀きひん、申しぶんのないものだ。いいものをきょうは見た。そういって翁は帰った。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かのシバルリイは朝廷との関係浅からずして、其華奢きやしや麗沢も自からに王気を含みたり、而して我平民社界には之に反して、政権に抗し、威武に敵する気禀きひんあるシバルリイを成せり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
六如のもつてゐた尖鋭な気禀きひんを嗅ぎ、楚といふ楚が、各自の思ふがままに真直に伸びて往くこの木の枝振りの気儘さと頑さとに、自ら風流第一と許した画人の、世間の規矩きくを超越した
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
どんな境遇をもしのぎ凌いで進んでいこうとするような気禀きひん、いくらか東洋風な志士らしい面影おもかげ、おぬいさんをはるかの下に見おろして、しかもいつわらない親切心で物をいう先生らしい態度が
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その幻視は作者の気禀きひんと離し難いが、われわれはその気禀にもある秘めやかな親しみを感じないではいられない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
老骨ろうこつとは思われない若々しい居士こじ語韻ごいんのうちに、仙味せんみといおうか、童音どうおんといおうか、おのずからの気禀きひんがあるので、小文治こぶんじはつつしんで聞いていたが、話がとぎれると
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ウィリヤム・テルの如き代表者の上に不朽なる気禀きひんをあらはし、忠節にれる時代には楠公なんこうの如き、はた岳飛、張巡の徒の如き、忠義の精気にちたる歴史的の人物を生ずるに至るなり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ここに看取せられるのは現実主義的な作者の気禀きひんである。それによって判ずれば、この作者がシナにおいて技を練ったガンダーラ人であるということは必ずしもあり得ぬことではない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)