気押けお)” の例文
「対の奥様がお気の毒ですね。どんなに大きな愛を宮様が持っておいでになっても、自然気押けおされることも起こるでしょうからね」
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
初めは、つまみ出しそうな権まくだったが、彼が、毅然として、小次郎将門だと告げると、さすがに気押けおされた気味で、ことばも改めだした。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花岡 な、な、なんだ? 野郎——(いいながらも、その佐山がスタスタと歩いて来るのに気押けおされて、三四歩さがる)
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
普通ならにべもなく「お生憎あいにくさま」で済ますところを、Hさんは姉さまの真剣な顔つきに気押けおされて、気前よく手持ちのなかから半ダース譲つてあげたのださうです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「それとも、大河に気押けおされて、やるべきことがやれないとでもいうのかね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
人物のうつわけたが違うのである。——気押けおされて、小次郎がたじろいだのを
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
が、辰子の声は、初子のそれに気押けおされて、ほとんど聞えないほど低い声だった。けれども俊助は、この始めて聞いた辰子の声の中に、優しい心を裏切るものが潜んでいるような心もちがした。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
東宮の外祖父で未来の関白と思われている右大臣の勢力は比較にならぬほど気押けおされていた。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
道誉ですら何かこの男を見たとたんには、意味なく気押けおされたかたちでなくもなかった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、気押けおされて、身を退くと、少年は、小さな体に持ち余るほどの長刀なぎなた
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに気押けおされて、敵の前側の列が、ぐっとくぼんだせつなが、血の吹きとぶ途端である。敵たりとも、くぼんだきりではいない。すぐ逆巻く波がしらを作って、おおいかぶさるようにぶつかってくる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気品があり、ことばはさわやかである。偵察隊の雑兵たちは、質問しているまに、何か、この少女のおちつきに、気押けおされるようなものを感じて来た。——しかし、たれもなお、疑いは解かなかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)