櫓拍子ろびょうし)” の例文
鰹舟かつおぶね櫓拍子ろびょうしほのかに聞こえる。昔奥州へ通う浜街道は、此山の上を通ったのか。八幡太郎も花吹雪はなふぶきの中を馬で此処ここを通ったのか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
艫幕ともまくいッぱいに風をはらむかと思うと、やがて、さっ! 颯! 颯! 二十四ちょう櫓拍子ろびょうしが、音頭おんどと共にこころよく波を切った——。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは彼の俊敏な五官の一つに響いて来たものの音、やや遠く近く、櫓拍子ろびょうしの音が、この海から聞え出したからです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ああそれさえまたたきをする間,娘の姿も、娘の影も、それを乗せて往く大きな船も櫓拍子ろびょうしのするたびに狭霧さぎりの中におおわれてしまう,ああ船は遠ざかるか
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
帰命頂礼きみょうちょうらいさいころ明神の兀天窓はげあたま、光る光る、と追従ついしょう云うて、あか柄杓へまた一杯、煽るほどに飲むほどに、櫓拍子ろびょうしが乱になって、船はぐらぐら大揺れ小揺れじゃ、こりゃならぬ、賽がすわらぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のどかな音頭に櫓拍子ろびょうしの声——そして朗らかにあわせるお国口調くにくちょうのお船歌ふなうたが、霧の秘密につつまれている秋の鳴門の海へ指してうすれて行った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)