うる)” の例文
お島がてたような顔をして、そこへ坐ったとき、父親がかたい手に煙管きせるを取あげながら訊ねた。お島はうるんだ目色めつきをして、黙っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雨がはれあがって、しめっぽい六月の空の下に、高原地の古い町が、おどんだような静さと寂しさとで、彼女のうるんだ目に映った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お増は怜悧れいりそうなうるんだ目をして、自分の顔を眺める静子に、そういって訊ねたりなどしたが、子供からは、何も聴き取ることが出来なかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
目が始終うるんで、手足も気懈けだるそうであった。その晩も、近所の婦人科の医者へ行って診てもらうはずであったが、それすら億劫おっくうがって出遅れをしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お増は落ち着いた調子で、お今をなじったが、お今は黙って、うつむいているきりであった。目が涙にうるんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「みんなまずい顔を持って来い。」と叫んだ先生は、寄って行った連中の顔を、うるんだ目にじろりと見廻した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母親の優しい小さい目にも、一時に涙がき立った。そして何にも言わずに、手巾ハンケチで面をおさえた。お庄も傍で目をうるませながら、くすぐッたいような気がした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お今は昨宵ゆうべ一晩自分の身のうえなどを考えて、おちおち眠られもしなかった体の疲れが、白粉を塗った、荒れた顔の地肌にも現われていた。目のうちもうるんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島は傍へ寄って来る小野田の手に、からみつくようにして、あかおどうるんだ目を見据えていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一度水々しいつやを持ちかけて来た顔色は、残暑にめげた体と一緒に、またうるんで来た。手足もじりじり痩せて、稜立かどだった胸の鎖骨のうえのところに大きなくぼみが出来ていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこは床屋とか洗濯屋とかパン屋とか雑貨店などのある町筋であった。中には宏大な門構えの屋敷も目についた。はるか上にある六甲ろっこうつづきの山の姿が、ぼんやりうるんだ空に透けてみえた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
目の色がうるんで、顔も手もかさかさしているのが、目立って見えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)