是方こっち)” の例文
「叔母さん、どんなに私は是方こっちへ参るのが楽みだか知れませんでしたよ。お近う御座いますから、たこれから度々たびたび寄せて頂きます」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と言って来ますし……生家さとの母からは、また……是非是方こっちへ帰って来いなんて……真実ほんとに、親達は、ず自分の子の方のことを考えてますよ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「しかし、今と成ってみれば、それも愚痴だ。父親おとっさんも苦しく成って来たから応援した——要するに、是方こっちの不覚だ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「オイ、もうすこしシャンとしてお歩きよ……そんな可恥はずかしいような容子をして歩かないで。是方こっちがキマリが悪いや」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
置いて見たか解らないが、何時でも是方こっちの親切があだになる——貴様くらい長く世話したものも無い——それだけの徳が貴様にはそなわっているというものだ
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以前まえの伊勢崎屋というものは、隣家となりの方と是方こっちと二軒続いた店になっていたんだね。これが大勝へ抵当に入った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そう思いますよ……私もそう長くは是方こっちに居られない人です……いずれた彼地へ帰ります……こんなにして、東京で貴方がたに逢えるとは思わなかった……
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あだかも彼方あっちの木に集り是方こっちの木に集りして飛び騒いでいた小鳥の群が、一羽黙り、二羽黙り、がやがやとした楽しい鳴声が何時いつの間にか沈まって行ったように
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうですナア、一年ばかりも居たら帰るかも知れません……是方こっちに居ても話相手は無し、ツマリませんからね……私は信濃しなのという国には少許すこしも興味が有りません」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三吉はゆびさして見せた。「あそこにうっすらと灰紫色に見える山ねえ、あれが八つが岳だ。ずっと是方こっちに紅葉した山が有るだろう、あのがけの下を流れてるのが千曲川ちくまがわサ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おまけに布施の方では、一切是方こっちのことは調べないと言うんだぜ。こんなウマい話は一寸ちょっと無いサ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
でも、よくしたものだ。前には『捨さん、お前さんの襟首えりくびは真黒だよ』って言っても、まだあかが着いてた。それがこの節じゃ、是方こっちから言わなくとも、ちゃんと自分で垢を
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やがて母は箒で籾を掃き寄せ、むしろを揚げて取り集めなどする。女達が是方こっちを向いた顔もハッキリとは分らないほどで、冠っている手拭の色と顔とが同じほどの暗さに見えた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暑中休暇が来て見ると、彼方あっちへ飛び是方こっちへ飛びしていた小鳥が木の枝へ戻って来た様に、学窓で暮した月日のことが捨吉の胸に集って来た。その一夏をいかに送ろうかと思う心持に混って。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひとから内証を打開うちあけられた時ほど、是方こっちの弱身になることはありません。思いつめた御心から掻口説かきくどかれて見れば、しまいには私もあわれになりまして、染々しみじみ御身上おみのうえを思遣りながら言慰いいなぐさめて見ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
是方こっちを眺めてはボンヤリと立っていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)