昇華しょうか)” の例文
今までいつも、失敗への危惧きぐから努力を抛棄ほうきしていた渠が、骨折り損をいとわないところにまで昇華しょうかされてきたのである。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
九時二十分頃、呂昇が出て来て金屏風きんびょうぶの前の見台けんだい低頭ていとうした。びきは弟子の昇華しょうか。二人共時候にふさわしい白地に太い黒横縞くろよこしま段だらの肩衣かたぎぬを着て居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きっと、長い世代、いくさと男どもに、しいたげられ、抑えられ続けてきた女の鬱憤が、女の唯一な“貞操の誇り”をかたちどった、静の姿に、昇華しょうかしたものであったろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは欧洲おうしゅう文芸復興期の人性主義ヒューマニズムが自然性からだんだん剥離はくりして人間わざだけが昇華しょうかげ、哀れな人工だけの絢爛けんらんが造花のように咲き乱れた十七世紀の時代様式らしい。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
緋縮緬ひぢりめんの腰巻一つになって、裸体になった女の立ち姿、それは全身水に光って人魚さながらの美女、蒼白い顔、肩に流るる黒髪、——それは凄艶せんえんにも、昇華しょうかし去りそうな美しい姿です。
もっとも雪の話は、今までに何度も書いたことがあるので、雪の結晶そのものの説明、例えば水蒸気の昇華しょうか作用で出来た氷の結晶が即ち雪であるというような話は、今回は略すことにしよう。
また、裏切りだの、壮烈なる昇華しょうかだの。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)