旅宿はたご)” の例文
「園子お嬢様は旅ははじめて、さぞお疲れでござりましょう。少しばかり早くはござりますが、旅宿はたごを取ることにいたしましょう」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あからめイヱ/\五ヶねん前私し在所ざいしよ柏原の宿へ一夜とまりたれども其節そのせつ父銀五郎病中にて私しは十二さい一夜の旅宿はたごいかで然樣さやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すっぱりと、こだわりのれたように、治郎吉は宿へ帰りだした。旅宿はたごは北久太郎町の鈴木屋、お仙といっしょに、そこの裏二階に、十日あまり泊っていた。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博多駅前の蓬莱館ほうらいかんという汽車待合兼業の旅宿はたごに泊っていたが、この蓬莱館というのはかなりの大きなうちで、部屋の数が多い上に、客の出入りがナカナカ烈しい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そしてそれを方々に担ぎ込むで、自分の代りに喋舌しやべらしたものだ。この方が汽車賃も要らねば、旅宿はたご賃もかゝらないのだから、地方人に取つて、どれけ便利か判らなかつた。
旅宿はたごの辻の角から、黒鴨仕立の車夫がちょろりと鯰のような天窓あたまを出すと、流るるごとく俥が寄った。お嬢さんの白い手が玉のようにのびて、軒はずれにと招いたのである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おとまりはよい程ヶ谷にとめ女、戸塚まえで、放さざりけり……ちょうど地点が一夜のとまりに当たっていますから、大小の旅宿はたごがズラリと軒をならべて、イヤ、宿場らしい宿場気分。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
陸は怪我をしやすいからといって子供を叱ります、旅を常住とする私が、旅を恐れないのは、死がすなわち人生の旅宿はたごだと、こう信じておるからでございます——私風情は取るにたりません——古来
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕暮れに近い時刻であって、旅宿はたごの門では留女とめおんなが、客を呼ぶ声を立てはじめていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一方、品川の旅宿はたごへ立ち帰った源三郎は。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)