すり)” の例文
むかし富士山に登つた時、砂走で轉んですりむいた膝子ひざつこの傷痕を撫でながら、日本晴の空にそそり立つ此の國の山々の姿を想ひ描くのである。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
「これが一番大きくって心持がいいでしょう」と云った下女は、津田のためにすり硝子のはまった戸をがらがらと開けてくれた。中には誰もいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同一おなじ処をちょっとも動かず、四足をびりびりと伸べつ、縮めつ、白いつらを、目も口も分らぬ真仰向まあおむけに、草にすりつけ擦つけて転げる工合ぐあいが、どうもいぬころのじゃれると違って
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある時は牝馬と同じように前足を高く揚げて踴上るさまも見え、ある時は顔と顔をすり付けて互に懐しむさまも見える。時によると、牝馬はつんとすねた様子を見せて、後足で源の馬を蹴る。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ではもう、浴場との境のすりガラスの戸を開けて見るまでもありません。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
或る時にはすりガラスを透して見るやうにほのかであつた。